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幻想
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それからと言うもの、ヨルダン様は毎夜の如く私の部屋へやって来ては、私の身体を弄ばれていった。乱暴に扱われたのは最初の一回だけで、それ以降は二回目のようにじっくりと時間を掛けて私の身体を暴いていった。
そのせいか、一週間経つか経たないか分からない辺りで、私の身体はヨルダン様に与えられる快感に打ち震えるようになっていた。ヨルダン様から与えられる快感は、今まで後宮で禁欲生活を送ってきた私には刺激が強すぎるものだったのだ。

「…主も、大分良い顔をするようになってきた…っ……」

私の身体を抱きながら、ヨルダン様が告げられた。
自分の顔が今、一体どんな表情をしているかなんて当人の私に分かる筈もなかった。
なけなしの理性で、なんとか快楽に飲み込まれまいとするのに一杯一杯でそんなことに気を遣っている余裕も無かったのだ。

「同じ男から、与えられる快楽に打ち震える主の姿を見て……誰も騎士だった人間だとは思うまいっ」

脳裏に、いつの日か覗き見たヨルダン様とエーリオの情事の光景が思い浮かんだ。
同性とは思えぬほどに、艶やかなに啼いていたエーリオ。今の私が、その時のエーリオと同じだと言うのだろうか。

「――――まるで、男娼のようだ」

ヨルダン様の言葉は、的確に私の心を傷付けた。





情事はいつも、ヨルダン様が果てられるまで続けられる。
ヨルダン様が一度果てられる間に、私は幾度も絶頂を迎えさせられる。その為、行為が終わった後は、疲労で寝台に死んだように身を預けるしかできない。

「………主も変わっておる」

いつも情事の後は早々に立ち去られるヨルダン様だったが、今日は違うようだった。
寝台に腰掛けたまま明後日の方向を向かれている。憂いを帯びたような横顔が、月光に照らされる。

身体を幾夜も重ねて感じたことがあった。
私を見る憎悪を孕んだ鋭い眼差しの中に、一抹の憂愁の色が混ざるのを。
ヨルダン様は私を通して、何を見ているのだろうか。

「アルベルトに言われたのではないのか。不興を払拭したいのならば、今までの発言を撤回しろと」

“私は王の一配下とし、王の御身をこの命に代えても守ることはありません”
“人間は自分の保身の為ならいとも容易く人を騙すことが出来る”

ヨルダン様の言葉に、あの日アルベルト殿に言われたことを思い出した。
あの時の遣り取りをヨルダン様は知っていたのか。アルベルト殿から何か進言でもあったのだろうか。
知っていながら、この発言をされたということは……。暗にヨルダン様は、その言葉を口に出せば全てを許すとおっしゃっているのだろうか。

…………許す?
私は許されなければならないことを、ヨルダン様に告げたのだろうか。
“私は王の一配下とし、王の御身をこの命に代えても守っていく次第であります”
この言葉のどこに不敬があるだろうか。
私が悪いのか?許しを請わなければならないのか?
―――そんなこと、絶対ある筈がない。

「………私は、」

絶対ヨルダン様を裏切りません。

例え、どのような目に遭わされても。どんな理不尽な行為を強いられたとしても。
それが私の騎士として、残された唯一の矜持だった。

ヨルダン様が王である限り、騎士であった私がその御身を害することなどあってはならない。
それが、私が導き出した答えだった。





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あきゅろす。
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